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私は何を知っているか?

Mark/まあく タイトルはミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592)の言葉 「Que sais-je?(私は何を知っているか?)」

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JR長崎本線のあわや正面衝突はなぜ起きたか

鉄道

5月22日、JR長崎本線で「特急かもめ」同士があわや正面衝突という距離に接近して緊急停止する事故があった。この記事では、なぜこのような事故が起きたのか原因を考えてみたい。


www3.nhk.or.jp



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JR長崎線:わずか93メートルまで…特急同士が衝突寸前 - 毎日新聞から引用



事故の概要

事故の概要はこうだ。

 22日午後0時20分ごろ、佐賀県白石町のJR長崎線肥前竜王駅で、下りの博多発長崎行き特急「かもめ19号」(7両編成)が、上りの長崎発博多行き特急「かもめ20号」(6両編成)が停車していた待避線に進入し、緊急停止した。

特急かもめ、あわや正面衝突 93メートル手前で緊急停止 [佐賀県] - 西日本新聞

長崎本線のこの区間は単線で、上り列車と下り列車がすれ違うためには行き違い設備のある駅で列車交換を行わなくてはいけない。先に肥前竜王駅に到着した上り(博多方面行き)「かもめ20号」(885系、白の車両)が待っていたところに、下り(長崎方面行き)「かもめ19号」(778系、グレーの車両)が同じ線路に進入して来てあわや正面衝突という場面になった。見取り図も同じ記事から引用する。なぜすれ違うはずの列車が同じ線路上に進入したのか、ここが今回の事故の問題だ。

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特急かもめ、あわや正面衝突 93メートル手前で緊急停止 [佐賀県] - 西日本新聞から引用


なぜ上り「かもめ20号」は進行方向右側の線路にいたか

ここでネット上のコメントを見ていると、上り20号が進行方向右側の線路にいたのがおかしいという意見が見られた。だがこの意見は正しくない。確かに、日本の鉄道は原則として左側通行である。複線はもちろん、単線でのすれ違いでも、列車は進行方向に対して左側の分岐に進むよう進路が取られているのが普通である。分岐器の分岐側を通過する列車は曲線による速度制限を受け、駅のかなり手前から減速することを余儀なくされる。


しかし、肥前竜王駅は一線スルー配線という構造が取られている。一線スルー配線というのは、すれ違い設備の直線側を定位としておき、列車が減速することなく通過できるようにした構造のものを言う。通常の配線では、列車が上りか下りかによってどちらの線路を通るが決まる。すれ違い部分では、それぞれの線路が一方通行になっているのに対し、一線スルーでは、上りか下りかに関わらず、先に来た列車が分岐側に入って退避し、通過する方の列車が直線側の線路を使う。退避する側の列車が速度制限を受けることには変わりないが、ダイヤ設定を工夫することでトータルでの所要時分が短くなるようにしている。特に高速度で通過する優等列車が設定されている路線ではこの配線が取られていることが多い。


肥前竜王駅でも普段からこの一線スルー配線を利用した運用が行われていたようである。だから先に駅に到着した上り20号が退避側の線路に入るため、右側に分岐したのは原則通りの運用である。

駅構造

相対式ホーム2面2線を有する地上駅。互いのホームは跨線橋で連絡している。ホームは817系電車に対応し2両分がかさ上げされている。上り線を通過線とする一線スルー配線となっている。隣の肥前白石駅と同様に駅舎が下り線側にあるため、特急列車の待ち合わせがない場合には普通列車を上下とも下り線側に入線させ、乗降客が跨線橋を渡らずに済むようにする柔軟な運用が行われている。

肥前竜王駅 - Wikipedia

信号機の建植位置と下り19号の停止位置

毎日新聞の以下の記事の写真を見てみよう。下り19号側から見た肥前竜王駅の状況がわかる。注目すべきは、画面の左下、踏切の手前に場内信号機(停車場内への進入の可否を示す信号機)が見える。その先に進むと肥前竜王駅構内の分岐器が見える。電車の車長は一両約20mなので、その間約100m離れていることがわかる。普通は、場内信号機は分岐器のすぐそばにあるが、信号機を建植する場所がなかったり、手前からの見通しが悪かったりするとその前に設置されることがある。


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【写真特集】JR長崎線:特急同士あわや正面衝突 緊急停車で回避 - 毎日新聞から引用


恐らくだが、下り19号は最初に点検のために停車したとき、場内信号機を過ぎた踏切のあたりで止まったのではないだろうか。そして点検のあと無線で指令に報告して運転を再開する指示を受けたはずだ。この時に下り19号の運転士からは、肥前竜王駅の待避線に止まっている対抗の上り20号の姿が見えている。(肥前竜王駅のホームが大きくカーブしているので信号の位置からは見えないかもしれない。)だから当然下り19号は待避線側でなく、本線側に進入しなければいけないとわかっている。この時に場内信号機の手前に止まっていたのなら、信号がどちらの線に開通しているか示しているから運転士は確認できたはずで、待避線側に開通したまま列車を発車させるはずがない。

異線現示(本来と異なった進路に線路が開通していることを信号が示していること)は指令のミスだが、異線現示を見落として列車を冒進(安全の確保されていない区間に列車を進行させること)させたら運転士のミスだ。下り19号の運転士は、(信号を既に過ぎていて見えないため)開通方向を確認しないまま自列車が本線側に開通していると思い込み時速35キロまで加速させた。そして分岐を通過して初めて待避線側に列車が進んだものだから慌てて非常ブレーキを入れたのだろう。

ATS(Automatic Train Stop)は作動しなかったのか、という点だが、ATSは列車が停止信号を冒進した際に(信号の位置で)自動でブレーキをかけるものである。今回は、下り19号が場内信号を超えた時には停止現示になっておらず、その後運転再開した際には既に通過してしまっているのでブレーキをかけるポイントがない。


▲下り線前面展望 肥前竜王駅停車(6分30秒から)
https://youtu.be/rAWSMR2Fbiw?t=6m30s

youtu.be
▲上り線前面展望 肥前竜王駅発車


肥前竜王駅の手前に先に到着したのは下り19号

ここまで肥前竜王駅に先に到着したのは、上り20号だと説明して来たが、実は下り19号だった。
(この記述は事実と異なることが判明したので取り消します。5/26 0:15)


JR九州によりますと、博多発長崎行きの下りの特急「かもめ19号」は午後0時10分すぎ、佐賀県の肥前竜王駅の手前で床下で異音を感じたため、運転士が列車を非常停止させ、駅の構内に入る青信号を僅かに超えたところで停車しました。この影響でダイヤが乱れ、当初、予定されていた長崎発博多行きの上りの特急「かもめ20号」とのすれ違いは、隣の肥前鹿島駅から肥前竜王駅に急きょ変更となりました。下りの特急の点検が行われていた午後0時20分すぎ、上りの特急が肥前竜王駅の1番線のホームに停車しました。そのすぐあと、下りの特急は点検を終えて安全を確認し、指令に報告したうえで運転を再開しました。

特急×特急 正面衝突避け緊急停止 佐賀 NHKニュース


ダイヤ上は、肥前竜王駅の一駅下り方にある肥前鹿島駅ですれ違う予定であったが、下り19号が点検のため停車していたため、その間に上り20号が接近。CTC( Centralized Traffic Control)指令員は、すれ違いを肥前竜王駅に変更。ダイヤ通りの運行を行っているときは、分岐器や信号の切替はPRC(Programmed Route Control)によって自動で構成されるが、ダイヤが変更になったため指令員が手動で切替を行ったと思われる。


下りの場内信号機と上りの場内信号機に挟まれた区間が停車場内=駅である。プラットホームがある場所が駅と思われがちだが、少なくとも運転上はその前後の区間も含んだ区間を駅構内としている。場内信号機を超えて停車していたのだから、下り19号が最初に停止した時には既に肥前竜王駅に進入していた。

だが、その停止した位置が場内信号機は超えているが、分岐を超えた待避線側には入っていない機械的な検知では超える直前(5/26 0:15訂正)という非常に微妙な位置に停まってしまったため、列車の位置に関して指令員が誤解をしこの後のミスに繋がったと思われる。


なぜ指令員は同一進路上に列車を進入させたか

これまでの流れを時系列に整理するとこうだ。

下り19号、肥前竜王駅の手前で点検のため停車。→ 指令が列車交換駅を肥前竜王駅に変更し、上り20号を肥前竜王駅まで進行許可 → 上り20号が肥前竜王駅の退避線上で停車 → 下り19号、点検終了、運転再開。(下り19号は本線(通過線)側に進むと思っている。) → 下り19号待避線側に冒進 → 下り19号待避線上で非常停止


「下り19号が、上り20号の止まっている線路(待避線)に誤って進入した」と報道されている。しかし、「下り19号が進入するはずの待避線に、指令が先に上り20号を入れてしまった」のが誤りではないだろうか。

先述した通り、駅には下り19号が先に入っていたのだから、下り19号の進路は最初から待避線側に開通していたのではないか。この時点で指令は、上り20号を待避線側に進入させないように分岐器・信号を操作させなければいけないが、異音検知のため下り19号が止まっている間に上り20号が肥前竜王駅に先着したと思い、上り20号を待避線側に手動で切り替えたのではないかと推測する。


連動装置は作動していなかったのか?

先に到着した方の列車が待避線側に入ると説明してきたが、チキンレースのように双方の列車が最高速度で進入して来たら、急に停止信号が出ても停止できず危険を回避できない。向かい合う双方の列車が同一の進路にならないよう、かつ、進路の先に障害がなくなるまで駅手前の信号から速度制限(一定の速度以下での進行を指示する注意、警戒現示)がかかっているはずだ。これを実現する仕組みが連動装置である。


下り19号が肥前竜王駅の待避線側に進路を開通していたのなら、対抗の上り列車側には待避線側に分岐する方向には開通しないよう、鎖錠(ロック)がかかっていなければならない。なぜ連動装置が作動していなかったのか。これが今回の事故の一番の問題であるように思う。



この記事を書いている間に更新された毎日新聞の記事が比較的詳しく伝えている。

20号が肥前竜王駅の待避線に入ったことを受けて、JR九州指令が19号の運転再開を指示した。この時点でポイントは両方向とも待避線側になっていたが、19号の運転士は自分の側は直進方向になっていると誤解。約120メートル先のポイントを時速約35キロで通過して待避線に進入して初めて気付き、急ブレーキをかけた。列車は2両目まで待避線に入って停車した。

 誤解が生じた理由が19号の停車位置だった。19号の運転士は目視で既に信号機を越えていると認識していたが、信号機のセンサーを感知する車輪はまだセンサーを越えておらず、実際は信号機のわずか手前で止まっている状態だった。

JR長崎線:わずか93メートルまで…特急同士が衝突寸前 - 毎日新聞


これを見ると下り19号の在線検知が正しい位置でできていなかったように思われる。下り19号は場内信号機の内方(先)に進入しているのに、CTC指令側の表示では信号機の手前で停止していたように認識したようだ。(この記事では下り19号は信号機の手前で止まっていたのが正しいとしているが)先述したように、本来信号機を建植する位置よりもかなり手前に建植していることが、トラブルを招いた遠因となっているのではないか。

いずれにせよ連動装置によって鎖錠されていれば、上り・下り双方の線路から同じ待避線に進路が開通することはないはずだ。指令員が連動装置を切って、手動で分岐を切り替えたのではないか。そんなことがシステム的に可能なのかと思うが、事故の後の回復動作としてありえる手順なのかもしれない。


異音検知による緊急停止と点検、影響でダイヤの乱れと、組み直し(交換駅の変更)、信号てこの手動操作、通常とは違うイレギュラーな作業が続いて確認がおろそかになった可能性が高い。事故はこのようなときに起きる。


状況を整理すると、イメージとしては、「高速で走行して来た特急列車同士が突如見えて正面衝突しそうになって非常停止で回避」というよりは、「双方の特急列車が相手が見える状態で徐行して進入して来たところ異線進入して非常停止」という方が近い。ただ、現実に保安装置は死んでいて、運転士が自らブレーキを動作させなければ衝突も起き得た。原因を徹底して解明して、防止策を取って欲しい。




私の鉄道信号、保安システムに関する知識は、我流で身につけたものなので誤りがあるかもしれない。現時点で得られる情報から憶測に憶測を重ねて書いてきたが、詳しい方や専門家がこの記事をご覧になっていたら訂正をお願いします。



(5/26 0:15追記)
コメント欄に投稿頂いた皆さんのおかげでより事実に近いと思われる内容が判明してきました。また報道から、その裏付けとなる情報も出てきています。ありがとうございました。次の記事もご覧ください。

que-sais-je.hatenablog.com