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私は何を知っているか?

Mark/まあく タイトルはミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592)の言葉 「Que sais-je?(私は何を知っているか?)」

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東電(原発)は日本のエンロンではないか

社会 映像作品

先日あるドキュメンタリー映画を見た。『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』

エンロン事件の構図と日本の原発業界の類似

エンロンについての一通りのことは読者もよくご存知のことと思う。ガス・電力・パイプライン等の総合エネルギーとITビジネスを行うアメリカ有数の大企業で『フォーチュン』誌が選ぶ「アメリカで最も革新的な企業」に2001年まで6年連続で選ばれていたが、巨額の不正経理・不正取引による粉飾決算が発覚し同年末、突如破綻した。端的に言えばエンロン事件とはこのようなものだが、その経営が一体どのようになっていたのかこの映画を見ればよくわかる。

古今東西、時の権力者の栄枯盛衰は作品のテーマとして定番であり、この映画はエンターテインメントとしても大変よくできているのでドキュメンタリーや経済にあまり興味がない人でも楽しめる作品であると思うが、日本における3/11を踏まえると、その後明るみに出た原発にまつわるお粗末な事情を重ねて見ざるを得なかった。

私は反原発運動等を特別熱心に行っているわけではないが、原発の問題に無関心であることは、ただの日本国民の一人としてあまりに無責任だと思うので、たまに述べておかなくてはならない。



エンロンは優秀なスタッフが集まり先進的な経営を行う企業であったが、証券市場に開示する書類は虚飾にまみれたものだった。実際には事業に失敗し損失が出ていても、決算書類上は利益が出ていることになっていた。株価というものは本来その性質上将来の予測を織り込んだものになっているものではあるが、早くから時価会計主義を導入しまだ確定していない未来の収益を計上してしまった。新しい発電所を造る計画だけがあれば、投資が回収できるかすらも分からないのに今の利益とした。経営陣は「エンロンの株は必ず上がる。買いだ!」と強く宣伝し、それに煽られ実際株価は上がり、経営陣から現場の作業員までが持つ自社株の値上がり分として利益をもたらした。

東電(あるいは沖縄電力を除く、原発を導入する日本の電力会社)は、原子力は他の電力(火力・水力など)に比べ発電コストが安い、夢のエネルギーだと宣伝してきたが、その計算が操作されたものであったことは震災後明らかになった。*1使用した核燃料の処分は絶対に行わなければならないが、発表しいてた発電コストにはその費用を含んでいなかった。日本には核燃料の最終処分場すらまだなく、最終的にいくらかかるのかも不確かである。福島第一の壊れた原子炉の横には今も冷却を続けなければいけない使用済み核燃料がプールに入っている。一度事故を起こせば甚大な被害をもたらす原発はその補償費用等も引当金として計上しておかなければいけなかった。電力会社は震災まで安定して利益を出し続けてきたが、それは将来絶対に必要となる費用を先送りして見ないことにして作っていた仮想の利益に過ぎなかったのだ。今期発表された各電力会社の決算は、火力発電の燃料費が圧迫し軒並み赤字となった。予期していなかった突然の転換でコストがかさんだのは事実であろうが、原子力なら安くできるという誘導には疑ってかかるべきだ。

エンロンでは同社の会計監査人、顧問弁護士も粉飾決算に加担し、社外の人間にも金品をばらまき飼いならしていた。市場のアナリストは同社に好意的な見通しを発表していれば、会社を通し厚遇を得られ、逆に懐疑的な見方をしたアナリストは圧力をかけられ職を追われた。政権に巨額の政治献金を行い、規制当局には息のかかった人材を送り込み、親交の深かったジョージ・W・ブッシュ大統領の下で電力自由化や同社に有利な金融・会計政策が行われた。エンロンの肥大を誰も止められない体制が作られていた。

日本の原発業界で行われてきたことはもっと大掛かりだ。原発を推進すればお金が入る仕組み「利権」を作っていった。利権が何かを具体的に説明すれば次のようなものだ。原子炉を受注する電機メーカーは儲かる。電力会社は原発の投資コストを電気料金に上乗せして絶対に損しない仕組みになっている。政治家は見返りを受け取る。原子力の科学者には国から科学研究費が簡単におりる。原発に批判的な科学者や新エネルギーの研究者は冷遇される。地方自治体には交付金が入り、雇用が生まれ地元経済は潤う。地方議会の議員には、関連施設を受注する建設業界の有力者や東電の現役社員までいる。*2経産省を中心とした官僚は、原発が拡大するほど出向先の規制機関や、天下り先の所管団体が増える。それらの原子力広報団体は児童生徒に原発の作文コンクールを行う。それに先立っては当然、原発の利点ばかりを並べた広報誌や教育本を作り学校を通して配る。電力会社はマスコミに多額の広告費を払い批判的な記事を抑制し、著名人をCMに出演させ啓発する。原発の危険性に気付き政治を通して行動してこなかった責任の一端は我々国民にもあるが、これだけのプロパガンダが行われていて四方八方から原発は必要だと言われ続けていたら、正常な判断ができなかったのは仕方ないとも言えよう。

原発がこの国に必要だったからではなく、原発をやると儲かる人たちが私腹を肥やすためにそういう仕組みを作ってきたのだ。そしてこれら全ての資金に国民が払った税金と、電気料金の一部が投入されている。*3果たしてこれだけの巨額を投入されていることを考慮してなお原発は安いと言えるのか。原発を進めていなければそのお金は別の政策に使えたのではないか。

エンロンは2000年、カリフォルニア州計画停電を引き起こした。電力料金をつり上げて儲けるために、天候や送電設備の支障を理由に偽装してわざと電力供給を止めたのだ。停電でエレベーターに閉じ込められた老人を救出するニュース映像を見て、馬鹿笑いするエンロン従業員の電話のショッキングな通話内容が映画の中でも使われている。

ここで原発停止後の日本で今後も予測されている計画停電が偽装であると類推するのは、いささか拙速であり根拠を示さない安易な断定は避けたい。だが、少なくとも原発利権を持つ者たちにとって「やっぱり原発が必要なんだ」と国民に思わせ巻き返しをはかるチャンスとして利用し得ることには留意しておく必要がある。

エンロン株は絶対に下落しない」というあり得ない前提があって初めてエンロンの成長は成立したのだった。エンロンは本当は儲かっていないという真実が皆に知られた瞬間、虚像は一挙に崩壊した。

原発事故は絶対に起こらない」というありえない前提のもと、保険をかけることもせず、災害訓練やマニュアルの作成も行わず、山積した問題を全て先送りにすることで原発は表面上利益を生んでいた。1978年以降日本で臨界事故が3回起きている。*42011年レベル7のメルトダウンが起きた。もはや日本において原発を安全にコントロールできるという虚像は崩壊した。

エンロン事件では嘘の財務諸表を発表していた経営陣や会計士が訴追され服役した。映画「チャイナシンドローム」で、原発の危険性に気づき原子炉の停止を強行しようとした技術者は気狂いの扱いを受け射殺された。一人で訴えた者は全責任を負わされ、大きな組織や体制の中で役割を分担していた者の責任の所在は曖昧になる。日本で国民を欺き杜撰な原発行政を行ってきた責任は誰が取るのだろうか。

日本が原発をやめるべき理由

今では疑問符がついた「安い」しか売り物がない。にも関わらず「かけがえがない」がごとく説いたのが、政府の最大の過誤ではないか。

(中略)

しつこいようだが原発は止めただけでは安全にならない。安全に片付けるのにも、費用と技術と時間がかかるのだ。
一番まずいのは、脱原発でも続原発でもない、「忘原発

原発は安くもなく環境に優しくもない。あえて原発を推進するメリットがない上に、世界で起きる地震の10分の1が発生する地震集中地帯であり、*5津波被害にも遭い易く、使用済核燃料を人里離れたところに隔離する広大な土地もない日本は、世界で最も原発を建てるのに適さない地理的条件ではないか。さらに安全性を検証し、公開し、災害を予防する仕組みも未発達の人々に扱える代物ではない。だから喉元過ぎて人々の関心が薄くならないよう、日本の脱原発が本当に完了するまで我々はこの先何十年も言い続けなければならない。

今でも一般市民の間にまで、脱原発には賛成だが当面の原発を稼働させることに同情的な声がある。だが数十年かけて作ってきた仕組みが自然に壊れるはずがない。人間なんてものは強く意識しなければ、方針を転換して新しいことを始めるより、現状維持であることを好むものだ。何年までに原発を全廃すると法律で決めてそのために具体的に行動していかなければ、原発に変わるエネルギーが出来てから原発を止めるなどと言っていては絶対に止まるはずがない。(リスクマネジメントにおいてはその杜撰さが露になったが)日本の原発の技術が世界でも優秀なのは、過去数十年、兆円単位の資金を投入してきたからだ。新エネルギーは発電効率が悪いとか技術的に未熟だという前に、同様に資金を投入して技術開発を促進すべきなのだ。

今日本の全ての原発が止まっているが、将来の全廃が決定し安全策がとられた後で必要ならば再稼働もやむを得ないと私は思う。だがそれができないなら経済に影響があっても止めるべきだ。それは長年原発という危険なものを扱っていることに無自覚であったツケを、原発周辺に住む一部の人たちにそのリスクを押し付けて過ごすか、日本国民が不便を共有しながら原発の必要性を議論するかを選ぶことだ。



※それぞれの事例における根拠となる記事やデータの出典は時間の都合で省略しましたが、余裕があれば後で追記します。

*1:原子力は安い」の大ウソ!原発10・68円、 火力9・9円、水力7・26円 : J-CASTテレビウォッチ

*2:"「原発推進」東電“社員”議員は10都県に20人 歳費以外に人件費年数億円を電気料金から二重取り:MyNewsJapan"

*3:"1世帯あたり月平均約110円を電気料金に上乗せして電源開発促進税は支払われる形になっているが、原子力の研究や立地対策のために使われる「電源開発促進勘定」の半分以上が、経済産業省文部科学省など官僚OBが役員を務める独立行政法人公益法人、民間企業などに支出されている。東京新聞の調査によると2008 年度は3300億円のうち、51%の1700億円近くが9つの天下り法人に支払われていた。" 電源開発促進税 - Wikipedia

*4:1978年福島第一、1999年志賀原発、1999年東海村JCO

*5:"世界のほぼ1/10の地震は、日本周辺で発生していることが分かります。","日本で地震が発生しないところはありません。" 気象庁 | 地震について