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私は何を知っているか?

Mark/まあく タイトルはミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592)の言葉 「Que sais-je?(私は何を知っているか?)」

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米Amazonの財務諸表をグラフ化して分析(楽天、丸善との比較あり)

経営・会計

(良くも悪くも)みんな大好きアマゾン。私が2009年に書いたこの記事にも、その後特にフォローしていないのですが今でもたまにアクセスがあるようです。最近もAmazonの驚異的な高成長かつ安定的な経営実績を示したある記事が話題になっていました。


ということで、確かにあのグラフはインパクト大なのですが、あれ一つではわかったようなわからないような(投資に回している金額はあれからは全く分からないですし)、その意味を正しく取れていない人もいるでしょうから、さらに詳しく解剖してみたいと思います。

参考資料は、AmazonのIRページから、2012年と、以前にダウンロードしてあった2008年のAnnual Reportから数字を抜き出しました。アメリカのAnnual Reportは、日本の有価証券報告書に比べると基本的なP/L,B/S自体簡素な作りで、販管費の内訳や、固定資産の明細等も載っていないようです。(それでも100ページ弱ありますが。)アメリカの制度会計はよく知らないですし、もしかすると見落としていた別のところに記載があるのかもしれません。ともかくこのグラフを作成するのにかなりの時間を使ってしまったので、これ以上の深入りは避けたいと思います。


私がやろうとするのは、P/L,B/S等の基本的な財務諸表をグラフ化して、会社が行う事業のその規模、財務の構成をぱっと見で理解できるように視覚化しようとする試みです。財務諸表を見慣れていない人でも理解が容易になり、投資判断にも役立ちます。そのグラフとはこのようなものです。

このグラフの読み方は以下に説明していきます。

chapter0 財務諸表とは

とは言え、財務諸表、P/L,B/S,といったものが何か全くわからない状態で、この先の文章を理解するのは無理があるので、極々おおざっぱに説明しておきます。これらの用語の意味がわかる方はここは読み飛ばしてください。

chapter1 Amazonの財務諸表を分析する

さて、いよいよAmazonの財務諸表を分析していきたいと思います。


Amazon.com 2012年12月期のB/SとP/Lの比較図

まずこの図の見方ですが、左から1番めと3番めの棒グラフがB/Sの借方と貸方を表しています。借方/貸方は常に釣り合いますから、この2つの高さは常に同じです。それぞれ流動/固定、純資産の比率がわかります。利益剰余金と有利子負債の額はB/S貸方科目の内訳ですが、特に重要なので2番めのグラフに抜き出しています。ただ有利子負債の額を抜き出してくるのが大変なので今回は省略してしまいました。利益剰余金の額を見ると19億ドル、総資産(=総資本)の比率にして5.9%とかなり少なめです。これは過去に蓄積してきた利益の額が少ないことを示しています。

続いて右側の5本の棒グラフが、P/Lの項目、売上と費用を引いて残った各利益です。アメリカの会計では経常利益の概念がないので空けてあります。B/SとP/Lを同一縮尺で並べることのメリットは、総資産(=資本)回転率(=会社の全ての資産を元手に一年間にいくらの売上を上げているかという効率性)を視覚的に見ることができるのもその一つです。Amazonは188%と2倍近く回転させています。小売業界は一般に高めですがかなり優秀だと思います。粗利率24.8%は小売業ならこんなものでしょうか。Amazonは近年ネットサービス事業に乗り出していますが、依然として収益の85%はネット販売から得ています。そして販管費を引いた後の営業利益はがくんと減って、純利益は3900万ドルの赤字。この分、利益剰余金から補填することになります。赤字で大丈夫なのかと思うかもしれませんが、比率にしたら-0.1%、ほとんどゼロみたいなものです。ここまでコントロールして持ってきているのだとしたら見事だと思います。


最後に真ん中に残った時価総額時価総額をこの位置に配置したのはPBRとPERの比較ができるようにです。時価総額は株価×発行済株式総数で求まり、市場が同社の価値をいくらで評価しているかという数字です。B/Sの総資産から負債を引いた純資産82億ドル、これが現在のAmazonの正味の財産価値です。(正味の財産の意味は、財布の中に1,000円(資産)あったとして、友達から借りている(負債)のが400円だったとすると、正味の財産価値は600円ということです。)

この正味の財産価値に対して時価がいくらになっているかというと、現在の株価から計算すると約1600億ドルです。PBRは19.5倍。PBRは1.0倍が一つの目安として標準的な値ですから、はっきりいって異常に高いです。時価総額はあえてこの表の中に入れなかったのですが、なぜかというと時価が突出して高過ぎて他のグラフが圧縮されてしまうからです。配当を出さないとすぐに株主が怒りだすアメリカでずっと配当0円のAmazon(その分を再投資に回している)に、いかに市場が熱狂しているかということです。



Amazon.com 2012年12月期のC/S

続いてキャッシュ・フロー計算書(C/S)を見ます。2012年度期首時点で現金同等物を53億ドル持っていましたが、営業活動によって42億ドル得ました。そのうち35億ドルを投資活動に回しています。キャッシュフローとしては十分足りているのに、財務活動によって新たに23億ドル借り入れているため、期末の現金同等物は81億ドルまで増えています。まだ何か拡大を計画しているのでしょう。


chapter2 時系列比較


Amazon.com 2008年12月期のB/SとP/Lの比較図

Amazon.com 2008年12月期のC/S

次は時系列比較です。2008年の同社のグラフです。4年前の売上は3分の1以下の192億ドルですが、B/Sはもっと小さいので総資本回転率は230%を超えています。利益剰余金は7億ドルのマイナスになっていますね。資本金が十分あるので債務超過にはなっていません。

この4年間でどれだけ大きくなったかということをわかりやすくするため、2012年のグラフを縮尺が同じくらいになるように重ねてみたのが以下です。


Amazon.com 2008年と2012年の比較

圧倒的です。2008年は売上総利益と営業利益の差があまりありません。販管費が今より少なかったということですが、内訳を見てみないとわかりませんが、たぶん減価償却費が今ほど多くなかったのではないでしょうか。

Amazonが投資を本格化させるのはまだこれから


Amazon.com 基本F/S要点の推移

すみません。疲れてきたので、グラフは省略しましたが、2004年から2012年度の各F/Sから主要な項目の抜粋です。一番上がP/Lです。純売上高、営業利益、純益です。これを見ると毎年赤字というわけではないようです。2004年からでは、昨年初めての赤字を出しています。

真ん中の表はフリーキャッシュフローを示したものです。基本はC/Sの数値ですが、少し違います。一番上の行が、Net cash provided by operating activitiesで営業活動からの現金収入、2番目が"Purchases of fixed assets, including internal-use software and website development"ですから、固定資産、内部使用のソフトウェア、ウェブ開発に充てた支出ですね。で、これを見るとですね、Amazonでは手元にあった現金をガンガン投資に回してきたかというと、そうでもないんですね。営業活動からのキャッシュインフローのうち50%以上を投資に回したのは実は2012年が初めてなんですね。というのは、成長段階にある企業で積極的に規模の拡大を狙っていくところは、営業活動からのインフローを上回る投資アウトフローをして、足りない分は借りれいて(財務インフロー)でもやるということは珍しくないです。トヨタでも平成14年から17年までずっとフリー・キャッシュフローがマイナスだったそうです。*1Amazonはフリー・キャッシュフローがずっとプラスの状態で来てますからまだまだ余裕が感じられるというか、やっと去年から本気出して投資してみたというような状態なのではないでしょうか。ちょっと末恐ろしいです。


さて。財務分析は私よりもどなたかもっと詳しい方がいるでしょうから、これらの数字を使ってできる分析はどうぞ自由にやってください。

chapter3 同業他社と比較する

次は同業他社との比較ということで、日本の企業で、楽天丸善のグラフを用意しています。楽天株式会社は、楽天ブックスを含むネット販売事業を行う会社。銀行、証券、カード等の金融分野の構成比率も大きいようです。丸善CHIホールディングス株式会社は、傘下に書店の丸善ジュンク堂図書館流通センターhontoブックサービスを持ちます。どうでもいいことですが、CHIはシーエイチアイじゃなくて、チと読むのが正しいようですね。知の意味だそうなので。

楽天

楽天流動資産・負債の大きさが目立ちますが、これは楽天銀行を始めとする金融事業を連結していることによるもののようです。

12年の売上高をセグメント別の構成で見てみると、ネットサービス事業は2858億円、金融事業は1564億円。ちなみにAmazonの売上高611億ドルを1ドル95円で換算すると5兆8045億円です。

第4四半期(Q4)(10~12月)の営業損益では前年同期比で、ネットサービス事業-32.1%に対し、金融事業は+64.5%の成長(2012年度決算開示書類より)となっていて、まだアベノミクス相場により市況が活気を取り戻し始めたばかりの時期ですが、金融事業の利益が急速に向上しているのがわかります。

この事業年度から電子書籍koboが連結開始になっていますが売上高など詳細はわかりません。

キャッシュフローでは、投資活動によるインフロー1365億円が目立ちますが、これは支出が銀行業における有価証券の取得による2540億円、Kobo Inc.の買収による370億円、ソフトウェア等の取得による190億円、収入が銀行業における有価証券の売却及び償還による4613億円を相殺しての数字となっており、やはり金融事業による影響が大きく分析が難しいですね。


Amazon楽天を比較してみると、純資産ではAmazon82億ドル(95円換算で7790億円)に対し楽天2625億円、営業利益ではAmazon7億ドル(→665億円)と楽天723億円と同じくらいの水準になりますが、時価総額では約9倍の差がついています。

丸善

丸善は総資産1223億円で売上高1723億円。営業利益率の低さが気になります。PBRは一倍割れ。


営業キャッシュフローの3倍超の投資アウトフローがあります。

chapter4 この記事で使用したグラフについて

この記事内で使用したグラフはMicrosofe Excelで作成したものですが、P/LとB/Sを同一縮尺で並べてその規模や比率を比較する考え方は、國貞克則氏の著書で使用されているものにヒントを得て、そのデザインを行いました。


▲『決算書でよむ企業と業界力』pp.212-213

財務諸表は、会社の決算短信有価証券報告書で見ることができますが、財務諸表の本体は以下のように、複雑かつ膨大な数字の羅列であり、慣れないと全容を把握するのは難しいです。グラフ化することによって、短時間で直感的に理解することができるようになり、数値の詳細な分析をするにあたっても手助けとなるでしょう。

財務諸表のデータはXBRL形式で、金融庁EDINET東証のTDnetで公開されているので、自動処理してグラフ化することはできないものでしょうか。私は詳しくないのでよくわかりません。


國貞克則氏は先に紹介した本の中で使用されているグラフを作図するためのソフトも販売されているのですが(CD-ROMでスラスラわかる 財務3表一体分析法ソフト『図解の達人』(CD-ROM付き))、ネット上での評判を見ると、このソフト自体はそこまで使い勝手が良くはないようです。



ところで株主になると、その会社から決算ごとに、ビジネスリポートや株主通信等、様々な名称で書面が送られてきます。中身は会社の営業に関するニュースや、商品や店舗の紹介、そして財務情報も含まれています。会社法に基づく株主総会の通知とは異なり、親しみやすいものとなるように、雑誌のようにカラフルにデザインされた装丁で、各社共工夫して制作しているようです。

私の知っているなかでは、サマンサタバサのビジネスリポートにある財務情報のページには、大変わかりやすいグラフが掲載されています。
財務諸表の数値を直感的に理解しやすいように視覚化していて優秀なデザインだと思います。このような良いデザインを採用する会社が増えると個人投資家にとっても良いことだと思います。



▲『株式会社サマンサタバサジャパンリミテッド 2013年2月期(第19期)報告書』より


また、投資セクタ(業界)毎の財務構造の特徴を把握し、企業の財務諸表を的確に分析するためのコツを身につけるには、以下の本が参考になります。