私は何を知っているか?

Mark/まあく タイトルはミシェル・ド・モンテーニュ(1533~1592)の言葉 「Que sais-je?(私は何を知っているか?)」

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素朴な疑問:なぜ法令文章の「その他」の前には読点がないのか

法学部出身者には常識的なことなのだと思いますが、日本の法律文章表現で出てくる「その他」と「その他の」では意味が違うと言われています。

その他のは、「A、Bその他のC」という形で使われます。この時に、最後の「C」には「A」や「B」が含まれる、という点で、「その他」とは異なります。

http://www.law110.jp/lec/sonotano.html


いくつかのものを列挙して「その他」で繋いだときは、それらは対等、並列の関係にあります。例えば、

日本国憲法 第四十七条
選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

  • 法律で定めるもの
    • 選挙区
    • 投票の方法
    • 両議院の議員の選挙に関する事項

法律で定めるものとして、3つのものを挙げていて、示した3つはそれぞれは異質なものだというわけです。


一方、「その他の」のと言ったときは、「その他の」の前に挙げた項目は後に挙げたものの例示であり、広いくくりで見て同質のものです。

日本国憲法 第九条
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

  • 戦力
    • 陸軍
    • 海軍
    • 空軍

陸・海・空軍は、戦力の一部であってその例として示したものだということになります。陸海空軍の他に、「その他の戦力」を想定する可能性があると言えるでしょうか。いずれにせよ、戦力であるものは保持しないと。

次のように記号化していいかもしれません。
A,Bその他C
A1,A2その他のAx


しつこいですが、このような例文を書いてみました。

鬼退治の持ち物として吉備団子、武器、無慈悲な心その他戦利品を持ち帰るのに適したものを用意する。
それぞれの関係は、A,B,C,D

鬼退治のお供には、犬、猿その他の動物を連れていく。
それぞれの関係は、A1,A2,Ax


※私は法律の専門家ではありません。この記事の記述には誤りを含む可能性があります。もっと適切な説明があればご教示ください。


さて、このように思っていたのですが、これを書くためにちょっと調べてみたら両者の使い分けは現在ではルーズになってきているようでもあります。

以上のように、林修三「法令用語の常識」17頁は、「その他の」と「その他」の用語の違いを説明しているのですが、この二つの用語が今日でも上記のように正確に使い分け使用されているのだろうか、という疑問もありますし、同書18頁も認めているように、語呂、語感等の関係で、「その他の」を使うべき際に「その他」が用いられたり、またその逆も行なわれているようにも見受けられます。

厳密な語解釈が要求される法令で、このような不統一な使い方がされているというのは気持ち悪さを感じるのですが、この用語自体を定義する条文がなく、単なる慣例的なものであって、日本語本来の構造だけからこの意味を導くのは困難なだけに仕方のないことかもしれません。

ともかくとして、このような法律で使われる独特の用語として、他にも「直ちに・速やかに・遅滞なく」の使い分け、「みなす・推定する」の使い分け、なども面白いです。


さて、前置きが長くなりましたが、この記事で書きたい本題は別のところにあります。記事タイトルに書いた通り、また上の引用文で示した通り、法令文書に登場する「その他」と「その他」の直前の語との間には読点(、)を書かない慣例になっています。これが些細なことですが私には昔から疑問なのです。確か小学校5年生で日本国憲法を読んだ時から「変な書き方をするなあ」と思っていました。

ドイツ語はわかりませんが、英語で「A, B and C」と並列する場合andの前にはカンマを置きませんから、日本が近代法を輸入した当時のその影響なのでしょうか?英語の場合スペースを置くのでわかりやすいですが、日本語で連続して書かれると語間に切れ目がなくなり違和感がありませんか?

租税特別措置法 第六十一条の四
3  第一項に規定する交際費等とは、交際費、接待費機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(第二号において「接待等」という。)のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいう。

こんな文章があると、「仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待」がパッと見、一つの塊として認識されて、意味が取り辛く感じます。意味上の区切りとしては「仕入先」の後と、「対する」の後にも読点を入れたいです。というか、試験の理論暗記の際には区切り線を入れて覚えています。

新しい国語表記ハンドブック』収録の、「くぎり符号の使い方」*1によれば、

「、」は、文の中で、ことばの切れ続きを明らかにしないと誤解される恐れのあるところに用いる。

対等の関係で並ぶ同じ種類の語句の間に用いる。

とあります。また、「公用文作成の要領」(昭和27年4月4日内閣閣甲第16号)も参照しましたが、この場合に該当する細かい規定はされていないようです。


検索していたら、少し違うのですが関連する話題にヒットしました。


「および」「または」についても、個人的には読点を入れた方がいいと思っているんですよねえ。この方の仰るように、一般的に「および」「または」の前には読点を入れずに書くのが正用とされているように思います。ただ私は、特にそのように習った記憶はないのですが、接続詞は前後から切り離しておくべきだろうと、機能構造的に読点を入れたほうが自然だろうとたぶん小学生くらいのときから思っているんですよね。二つのものを繋ぐだけのときは、それほど違和感がないですが。



結局のところ、「その他」の前に読点をつけないのは、慣例でそうなっているから、以上の根拠はないように思います。まあ歴史的に慣例というのは重んじるべきだとは思うのですが、読点を入れた方が自然だと思いません?少なくとも、「その他」の前には読点を入れた方が読みやすくなると思っているのですが、皆様はどのように感じられるでしょうか?

*1:文部省編「国語の書き表し方」(昭和25年12月刊の付録より)。「くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)」(昭和21(1946)年3月・文部省教科書局調査課国語調査室)を簡単にわかりやすくまとめたもの。